機張のズワイガニは機張で獲れたカニではありません
機張は獲る場所ではなく、集まって振り分けられる場所です。夜明けの市場で品物がどう分けられるのか、なぜ集散地で買うのが有利なのか。25年間毎日その場に立ってきた人間が書きました。

機張(キジャン)のズワイガニは、機張の目の前の海で獲れたカニではありません。機張は獲る場所ではなく、集まって振り分けられる場所です。いくつもの海域から上がってきた品物がこの市場に集まり、ここで等級が分けられ、そのうち良いものがここに残ります。
機張のズワイガニという言葉を初めて聞くと、少し拍子抜けされるかもしれません。機張の海で獲れるものだと思っていたのに、違うと言われるわけですから。実際、お客様ががっかりした表情をなさるのを何度も見てきました。
ですが、もう少しだけ話を聞いていただければ、きっと考えが変わるはずです。獲れる場所よりも集まる場所のほうがなぜ大事なのか、その理由が皿の上でどう表れるのか、書いてみます。二十五年間、毎朝夜明けにあの場所に立ち続けてきた人間として、知っていることだけを書きます。
なお、この記事はどこの店が良いという話ではありません。機張という地名がなぜズワイガニの前に付くのか、その理由を説明する記事です。読み終われば、市場で品物をご覧になるときの目が変わるはずです。
目次
- 獲れる場所と集まる場所
- 夜明けに起きていること
- 等級が分かれる仕組み
- 良い品物がここに残る理由
- 流通の段階ごとに変わるもの
- よくある誤解
- では味はどう違うのか
- 市場という仕組み
- 同じ一杯でも分かれるところ
- 買うときに聞いてほしいこと
- 時期によって出回る品物
- よくある質問

獲れる場所と集まる場所
ズワイガニは冷たい海の底に住んでいます。水深が深く、水温が低くないと育ちません。機張の目の前の海は、そういう条件ではありません。ここで獲れるのは、わかめとカタクチイワシのほうです。
では、なぜ機張にズワイガニが集まるのか。市場があるからです。水産物が回る市場は、どこにでもできるものではありません。品物が入ってくる道があり、それを受けて売る人がいて、きちんと保管できなければなりません。
機張はその三つがすべてそろっています。東海と南海がぶつかる位置にあるので品物が入りやすく、釜山という大きな消費地を背にしていて、古くからの市場ですから水槽も人手も整っています。
だから、いくつもの海域から上がってきたズワイガニがここに集まるのです。ロシア側の品物も来ますし、東海沿岸の品物も来ます。集まって振り分けられる場所、それが機張です。

夜明けに起きていること
私が毎日市場に出る時間は夜明けです。その時間に何が起きているのか、書いてみます。
品物が着いたら、まず状態を見ます。箱を開けて中を見るのですが、このとき見るのは大きさではありません。どれだけ生きが良いかです。運ばれてくる途中で弱った個体が、必ず混じっています。
次は手です。一杯ずつ持ち上げてみます。これは秤ではできません。秤は殻まで全部量ってしまいますから。手で持ち上げると、殻に対して中身がどれだけ詰まっているかが感じられます。二十五年やっていると、それが手に染みつきます。
それから選びます。ここで一日が決まります。良いものがない日は、少なめに仕入れます。無理に数をそろえれば、その日のお客様が損をします。そういう日は、お客様に今日はこちらのほうが良いですよと、別のものをお勧めします。
この作業が毎日繰り返されます。人が選んでくれたものをそのまま受け取れば、この工程がまるごと抜け落ちます。抜け落ちれば、その日の品物について私が知っていることが何もなくなるのです。

等級が分かれる仕組み
ズワイガニには、牛肉のような公式の等級制度がありません。ですから市場の中で、商いなりの基準で振り分けられます。
一つ目の基準は大きさです。重さで分けます。大きい個体ほど一杯あたりの値が高くなります。ただし、大きければ必ず良いというわけではありません。大きくても中身が空の個体もいれば、小さくてもぎっしり詰まった個体もいます。
二つ目は身の詰まり具合です。脱皮の周期と関係があります。脱皮した直後は殻が薄く、中身も詰まっていません。時間が経つほど殻が固まり、中身が詰まってきます。これを手で判断します。
三つ目は元気の良さです。脚を立ててはさみを持ち上げる個体と、底にへばりついている個体では値が違います。元気があってこそ水槽で持ちこたえますし、持ちこたえてこそ、ちゃんとした状態でお客様の食卓にのぼるのです。
この三つが重なって品物が振り分けられます。そして振り分けられた品物は、それぞれ別の場所へ向かいます。

良い品物がここに残る理由
ここが肝心なところです。なぜ機張で買うのが有利なのか。
品物が集まる場所では、選ぶことができます。十箱入ってくれば、その中から抜き出せます。一方、遠くへ出ていく品物は、すでに選ばれた後の残りであるか、選ばれたとしても長い移動距離に耐えなければなりません。
移動はカニにとって負担です。水の外にいる時間が長いほど弱り、弱れば身が痩せます。距離が短いほど、状態が保たれるのです。
そして回転が速い。お客様が絶えず入る場所ですから、品物が水槽に長く留まりません。長く留まれば、自分の体を燃やして持ちこたえるために中身が空いてしまいます。これはどんなに丁寧に管理しても防げません。
まとめるとこうです。機張という地名がズワイガニの前に付くのは、産地表示ではなく、流通上の利点です。選べる幅が広く、移動が短く、回転が速い。この三つです。
流通の段階ごとに変わるもの
同じ船から下ろされたカニが、どこを経由するかによってどう変わるのか、整理しました。
| 段階 | 選べる幅 | 水の外の時間 | 状態への影響 |
|---|---|---|---|
| 集散地の市場 | 広い | 短い | 元気の維持に最も有利 |
| 中間流通 | 中くらい | 中くらい | 移動中に脚の損傷が起きる |
| 遠距離の小売 | 狭い | 長い | 弱って身が痩せていく |
この表が言っていることは単純です。同じカニでも、どこで買うかによって受け取る状態が違うということです。
よくある誤解
お客様と話していると、繰り返し出てくる思い違いがあります。いくつかだけ挙げておきます。
一つ目は、国内産なら必ず良いという考えです。産地よりも個体の状態のほうがはるかに大事です。国内産でも脱皮直後の品物なら中身は空いていますし、ロシア側の品物でもよく詰まった個体はぎっしり詰まっています。
二つ目は、大きいほど得だという考えです。大きい個体は殻も厚くて重い。重さのうち殻が占める割合を考えれば、大きければ必ず有利というわけではありません。
三つ目は、脚が全部そろっていないとだめだという考えです。脚は移動中に取れることもあります。本数よりも大事なのは、残っている脚にどれだけ身が入っているかです。
四つ目は、色が赤いほど良いという考えです。蒸せばどれも赤くなります。生きているときの色は個体と環境によって違い、品質と直結するものではありません。

では味はどう違うのか
理屈はもういいから実際にどう違うのかと聞かれたら、こう答えます。
一つ目は脚の身の繊維です。力の残っている個体は、身が殻からまるごと抜けます。弱った個体は、身が殻に張り付いて崩れます。ほぐして食べるときに、すぐに分かります。
二つ目は甘みです。カニの身の甘みは、生きている間に保たれていた成分から来ます。長く絶食した個体は、それが減っていきます。味が薄い、ぼんやりしていると感じるのは、ここから来るのです。
三つ目は甲羅に残る量です。これが一番目につきます。よく詰まった個体はみそがたっぷり溜まっていて、そうでない個体は底が透けて見えます。ご飯を混ぜてみれば、違いは歴然です。
この三つは、お金を多く払えば解決するというものではありません。その日、どの個体に出会うかの問題です。

買うときに聞いてほしいこと
ここまでお読みになれば、何を聞くべきか見当がつくはずです。三つの言葉で足ります。
「いつ入ったものですか。」今日入った品物と三日目の品物は違います。売る側は知っています。答えを濁すなら、それ自体が情報です。
「持ってみてもいいですか。」活ガニを売る店なら、たいていどうぞと言います。手で持ち上げれば、先ほど書いた重みの感覚が分かります。
「今日は何がいいですか。」これが一番強い質問です。毎日自分で選んでいる人は、その日何が良くて何が今ひとつか知っています。ただ高いものを指すのか、今日はこちらのほうが良いと言うのか、そこをご覧ください。

うちのやり方
ここまで書いてきた基準を、うちの店にも当ててみます。
毎日夜明けに自分で市場に出て選びます。だからある日は水槽がいっぱいで、ある日は半分です。良いものがなければ少なめに仕入れます。これが二十五年変わらないやり方です。
扱っているのはズワイガニとタラバガニと紅ズワイガニです。締めには紅ズワイガニのラーメンと味噌チゲ、甲羅の炒めご飯をお出しし、お膳にはアワビ、ホタテ、サザエ、タコ、エビ、コシレギという海藻の和え物が一緒にのぼります。
ご注文をいただいたら水槽から出してさばき始めます。秤はお客様の目の前で量ります。値段は時価です。品物が毎日変わりますから数字を決めておかず、その日の基準をお伝えしています。

市場という仕組み
機張のズワイガニを理解するには、市場という仕組みを少し知っていただく必要があります。ここがなぜ特別なのか、その答えがそこにあります。
市場は一人で作るものではありません。品物を持ってくる人、受けて売る人、水槽を管理する人、さばく人。それぞれが持ち場に就いて長く居続けて、初めて回るものです。これは一朝一夕にはできません。
そして互いに見ています。隣の店がどんな品物を仕入れたか、今日どの船が入ったか、みんな知っています。この相互の目が品質を支えているのです。一軒が変な品物を売れば、その路地全体の評判が下がりますから。
お客様の立場から見れば、これが安全装置になります。何軒も並んでいる場所では比較ができ、比較ができれば、いい加減なことはできません。機張のズワイガニという名前が信頼を得た背景には、この仕組みがあります。
同じ一杯でも分かれるところ
同じ機張のズワイガニでも、店ごとに結果が違います。どこで分かれるのか、書いておきます。
一つ目は選ぶ段階です。夜明けに自分で出て見て選ぶのか、配達されたものをそのまま水槽に入れるのか。ここですでに半分が決まります。
二つ目は水槽の管理です。水が回っているか、密度に余裕があるか、水温が保たれているか。良い品物を仕入れておきながら、ここで台無しにする店があります。
三つ目はさばき方です。長くいじれば身が柔らかくなりすぎます。慣れた手は数回で終わらせます。それから、蒸すときに腹を上に向けるかどうかも、甲羅に残るみその量を変えます。
四つ目は回転です。お客様が絶えず入ってこそ、品物が水槽に長く留まりません。これは一軒が努力してどうにかなるものではなく、場所の問題です。
よくある質問
機張のズワイガニは機張の海で獲れるのですか。
いいえ。ズワイガニは水深が深く冷たい海に住んでいますが、機張の目の前の海はそういう条件ではありません。機張は、いくつもの海域から上がってきた品物が集まって振り分けられる集散地です。
では、なぜ機張のズワイガニという名前が付くのですか。
産地表示ではなく、流通上の利点のためです。品物が集まる場所なので選べる幅が広く、移動距離が短いので状態が保たれ、回転が速いので水槽に長く留まりません。
国内産はロシア産より良いのですか。
産地よりも個体の状態のほうがはるかに大事です。国内産でも脱皮直後の品物は中身が詰まっておらず、ロシア側の品物でもよく詰まった個体はぎっしり詰まっています。産地だけを見て買うと、損をする日が来ます。
大きいカニが良いのですか。
必ずしもそうではありません。大きい個体は殻も厚くて重い。大きくても中身が空の個体もいれば、小さくてもぎっしり詰まった個体もいます。重さより、手に持ったときの感覚のほうが正確です。
脚が取れているものは悪いのですか。
脚は移動中に取れることもあります。本数より、残っている脚にどれだけ身が入っているかが大事です。ただし、取れた跡から水が入ると身が柔らかくなりすぎるので、そこはご覧ください。
実際にはどんな違いが感じられますか。
三つです。脚の身がまるごと抜けるか崩れるか、甘みがのっているか味が薄いか、甲羅にみそがたっぷり溜まっているか底が透けて見えるか。ほぐして召し上がれば、すぐに分かります。
買う前に何を聞けばいいですか。
いつ入ったのか、持ってみてもいいか、今日は何がいいか。この三つの言葉で十分です。答える態度に、その店が表れます。
夜明けに自分で選ぶというのは、どういう意味ですか。
品物が着いたら箱を開けて状態を見て、一杯ずつ手で持ち上げて選ぶという意味です。人が選んでくれたものをそのまま受け取れば、売る側はその日の品物について何も知らないことになります。
値段はどう決まるのですか。
時価です。毎日入ってくる品物が変わるので、数字を決めていません。お越しになる前に電話やカカオトークでお尋ねいただければ、その日の基準をそのままお伝えします。
同じ機張のズワイガニなのに、店によって違うのはなぜですか。
選ぶ段階、水槽の管理、さばき方、回転の四つのところで分かれます。夜明けに自分で選ぶか配達を受けるかですでに半分が決まり、良い品物を仕入れておきながら水槽の管理で台無しにする店もあります。
市場の中に何軒もあるのに、なぜそれが良いのですか。
比較ができるからです。互いにどんな品物を仕入れたか全部知っていて、一軒が変なものを売れば路地全体の評判が下がります。その相互の目が、お客様にとっては安全装置になります。
水槽に長くいると、なぜ良くないのですか。
カニは捕まってからは食べることができず、自分の体を燃やして持ちこたえます。だから水槽に長く留まるほど身が痩せます。同じ日に入った兄弟でも、一日で出た個体と四日後に出た個体では中身が違うのです。
時期によって出回る品物
機張のズワイガニといっても、一年中同じ品物が出回るわけではありません。これは知ってお越しになるのが良いです。
冬から春へ移る時期が一番良い。脱皮から十分に時間が経ち、殻が固まって中身の詰まった個体が多く入ってきます。この時期は選べる幅も広いです。
夏は沿岸側に禁漁期がかかります。そうなると市場に出回る顔ぶれ自体が変わります。この時期は何かにこだわるより、その日は何が良いかお尋ねになるほうがずっと良いです。
秋は中間です。量が少しずつ増え始める時期なので、状態のばらつきが大きい。むしろこのときこそ、選ぶ目が必要になります。
そして一日の中でも違います。昼が選べる幅の一番広い時間で、夜が深まるほど残ったものから選ぶことになります。時間を少し早めるだけでも、結果が変わります。
まとめると
機張のズワイガニは、機張で獲ったカニではなく、機張で選んだカニです。獲れる場所は変えられませんが、選ぶ仕事は人がやります。その差が皿の上に残るのです。
うちは機張市場の中にあります。屋号は機張チョンヘワンデゲ、住所は釜山広域市機張郡機張邑邑内路104番キル12、電話は0507-1490-5702です。毎日朝九時から夜九時まで開けています。
産地の名前が気になる方は、マガダンとは何かをまとめた記事も合わせてご覧ください。


鄭永鎮
機張清海王ズワイガニ · 店主 · 25年の活魚商人